過去の政策からみた日本と民族の問題
‐「溝上 智恵子」氏の論文要約 -
1. はじめに
「溝上智恵子」氏は総合研究開発機構(NIRA)が行った「民族に関する基礎研究」第5章の「過去の政策からみた日本と民族の問題」というテーマの論文を通じて、明治期から第二次世界大戦の終わりまでにみられた日本における過去の民族政策をふりかえり、被支配の他民族に対して、直接同化とともに階層化をも図るという「同化主義政策」について事例をあげながら分析している。
このレポートでは、この論文の概要と論旨を要約したうえで、外国人として私なりの感想と意見をまとめることにする。
2. 論文の概要・論旨について
1) 民族という言葉の曖昧さ
世界各地では民族問題が起因したと思われる紛争が激化しており、最近はその主な原因は政治的理念による「東西対立」から「民族」に変わりつつある。しかし、日本では、長らくみずからの国を「単一民族国家」とみなしてきており、「民族」という言葉が「エスニックグループ」も「ネイション」も包括しているため、日本人と日本国民の違いをも明確に区別していない。
別の観点からみても、日本は「奴隷と移民に起源をもつ民族問題」が無かったことで、多くの日本人は民族問題を自分自身の問題としてとらえていない。
しかし、日本は大昔から他の民族と関わりをもって日本の文化を築いてきたこともあり、最近は外国人長期滞在者の数の急激な増加と多様化、外国人労働者問題などで周囲の環境が変わりつつあるので、これから日本人は民族問題に関心を向けざるを得ない状況になっている。
2) 日本と民族政策
民族の問題は、時の支配的権力がとる政策と密接に結びついている。過去の民族政策は植民地主義と大きく関わっているが、現在は、経済的な理由によるボーダーレス時代の人の移動と民族政策が関わりを持っている。
したがって、質的な違いはあるとしても民族政策の根底に流れる多数派側の異なる民族に対する考え方や思想は貴重な研究の資料になる。
このような基本認識のもとで、その政策を次のように類型化しながら例をあげている。
① 文化的にも社会経済的にも支配的民族に同化・融合してしまうタイプ(第1類型:同化融合タイプ)
② 社会的には平等の扱いをするが、独自の文化については認めるタイプ(第2類型:多元主義的タイプ)
③ 社会的には平等化されず、しかし文化的にも分離されたまま扱われるタイプ(第3類型:分離タイプ)
④ 文化的には同化をはかるが、社会的には差別が温存するタイプ(第4類型:階層化タイプ)
日本における明治以降の植民地政策ならびにアイヌ人に対する過去の政策は、基本的には文化的な同化を強要する一方で、政治的な同化を拒否し、差別が温存する「第4類型」に該当している。
3) 地域別にみた日本の同化政策
① 旧満州
多民族国家を前提とした「民族協和」=「五族協和」=「民族共生」という理念をもとにした同化政策から出発したが、結局、「指導民族=日本人」「非指導民族=その他の民族」という「二分的協和」に変質された。
② 韓国・朝鮮
武断統治⇒文化統治⇒公民化⇒創氏改名のように同化主義による異民族支配形式から、日本の一部に融合する同化主義へと変化した政策をとった。しかし、同化だけでなく「内地」「外地」を区分するなど分離主義に基づく日本人と朝鮮人の「階層化」も同時に行われた。
③ ミクロネシア
1914年の日本軍の占領による「島民教育政策」積極的な同化政策がおこなわれたが、1918年以降は島民教育と日本人教育を明確に区分した分離政策に変化された。島嶼部の特徴を活かした日本語の共通語化は一定の成果をあげたことと評価している。
④ 北海道・アイヌ
狩猟民族のアイヌに一定の給与地を与えて生計手段を農業に変化させるながら平民として日本国民に組み込み日本語を強制するなど同化政策を取っと。一方、「北海道旧土人保護法」による日本人との分離教育からみるような分離政策も並行して進められた。
4) まとめ (民族の共生をめざして)
明治以降の日本における民族政策は「同化政策」という言葉に、受容的な響きをこめながら、実は制度的にも社会的にも他民族を分離し、排除する二重構造をもってきた。
将来の展望としては第2類型にあたる「社会的には平等の扱いをするが、独自の文化については認めるタイプ」をめざしていくことにならざるをえない。
この民族問題は簡単には解決できないことではあるが、「民族の混在」という現実を踏まえて、まさに「民族の共生」を模索していくべきである。
3. この論文についての感想・意見
1)「沖縄・琉球」に対する民族政策?
この論文は日本における明治以降の民族政策について様々な角度で例をあげながら客観的に分析している。さらに、これからの日本の民族政策の方向まで示していることから、今後の民族問題を考えるうえで、良い参考になった。
しかし、「日本が同化主義を実施したすべての地域を網羅してはいない」という前提はあるにせよ、何故か、日本では誰でも知っている「沖縄・琉球」問題については、全然、言及していないことは残念に思っている。
ⅰ)旧満州、韓国朝鮮、ミクロネシアなど一時期は植民地であったが現在はそれぞれ独立している地域 ⅱ)アイヌのような元々国を形成していなかった民族 ⅲ)沖縄のように「琉球」という独自の言語と文化を持った独立国であったが、明治以降は完全に日本に融合されている三つの地域類型の観点で、それぞれの民族政策の進め方や影響を分析することも必要があるのではないかと考えている。
機会があれば、明治政府における琉球国に対する民族政策はどのように行なわれたか、Ⅰ~Ⅳの中でどの類型にあたるかは今後の課題として調べてみたい。
2)在日外国人の言語権の観点から
現在、日本に住んでいる在日韓国人の場合は「2世」以降になると国籍は韓国であるが、韓国語は話せないし、習おうともしない。また、社会的にも「通名」という日本式の名前を使っている人が多い。これは日本社会での外
国人(特に、アジア人)に対する差別が温存していることが主な原因に挙げられている。
一方、多民族国家である中国の例をみると、中国に住んでいる少数民族はそれぞれの自治区の設置と各自の言葉を優先して使うことが認められ、独自の民族文化の保存や発展にも国レベルで支援している。 まさに「溝上智恵子」氏が将来的に望ましいと結論として述べた、第2類型の「社会的には平等の扱いをするが、独自の文化については認めるタイプ」に当たる政策が中国では実際に存在しているのではないか。
これからの日本の言語政策は上記のような外国の政策をおおいに参考しながら、在日外国人の言語関連政策を進めるべきであると思われる。
「参考文献」
溝上智恵子、「民族に関する基礎研究-第5章:過去の政策からみた日本と民族の問題」、総合研究開発機構、1993
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